右翼に思想があるか

最近よく見に行っている脳内会議中というブログのここの記事で「ネット右翼」に関する考察を読んで、そこに書いたコメントの続き・・・
まず、オレが最初にネットの世界に触れてみて驚いたのはやたらに保守的な言説が多い、という事でこの事はずっと気になっていた。まぁオレも右よりなわけだから別に悪い事ではない、と始めは思っていたが根が天邪鬼なせいかあんまり多いと逆に何だか居心地が悪い。
で、そこでの考察の中で、ネットで左よりなブログなどに攻撃的書き込みをしまくる「ネット右翼」と命名された人達が実は元左翼だった転向組であり右翼ではなく単なる反左翼なのではないか、という文章に深く納得した。大概の憎しみとは近親増悪であって近いからこそ差別化する為に悪口を言い続けねばならないものだ。
ただこれを読んで思い当たったのはちょっと別な事だった。それをコメントにも書いたが言い足りないのでここに書いてみることにする。(これが本来のトラックバックの使い方なんだろうな〜)

まず岡田斗司夫OTAKINGspaceportというサイトに乗っている文章の引用から。これ『ジ・オウム』という本の文章みたいなんで引用していいのかどうかよく分からないが・・・まぁいいか(笑)

☆プラズマ兵器?あすかあきお、読んだな☆
〜中略〜
この間、ゲストで一水会鈴木邦男氏に来ていただいた時のことだ。当日の学生たちのレポートには「右翼の人、と聞いていたから怒鳴りまくりの軍歌かけまくり、と思っていたのに論理的な人だった」というものが多く、鈴木氏も苦笑していた。
 このゼミで私は鈴木氏に「ところで右翼とは何ですか?」と聞いた。当然、「民族主義とは〜」とか「天皇機関説〜」とか、そんな答えを期待していたわけだ。ところが鈴木氏の答えは、全く意表を突いたものだった。
 「左翼に反対するのが右翼です」
 「そ、それだけですか?」
 「それだけです」
 つまりこういうことだ。日本とアメリカは1960年に「日米安全保障条約」という奴にサインした。もし日本に敵が攻めてきてもアメリカ軍が守ってくれる、という条約で、もちろん敵というのはソ連のことだ。何でソ連が敵か、というとソ連は「共産主義国家」だからだ。  で、左翼というのは「共産主義は素晴らしくてソ連や中国は良い国だから、日米安保条約なんかケシカラン」という意見を言う人。右翼というのは「アンチ左翼」だから、当然主張はこうなる。
 「アメリカは日本を占領したけど天皇制は残してくれた。共産主義者天皇制反対なんだから許せん。だから共産主義者の言うことには全部反対するぞ。当然、安保には、ええと、賛成だ」
 安保以前には色んな思想が日本にはあった。「天皇制反対の民族主義者」や「反米国粋主義者」や「天皇制賛成の共産主義者」なんかもあったわけだ。当然、言論界はグチャグチャの泥沼。おまけに日本全体が政治運動で盛り上がっていたもんだから、一般大衆にも判りやすいスローガンなんかが不可欠だった。
 ところが大衆というのは判りやすいのを好む、つまりバカだから「思想的対立なんかどうでもいい。俺たち、何に反対すればいいの?」というノリでしかない。そこに登場した『安保』という命題を前にして、それまでグチャグチャだった日本の思想・言論界はいきなり二分された。
・「安保に反対が左翼」
 左翼は右翼の言うことに全部反対。右翼に反対する奴は味方。
・「安保に賛成が右翼」
 右翼は左翼の言うことに全部反対。左翼に反対する奴は味方。

とにかく岡田斗司夫の書くものはどんなに複雑な対象でも単純明快、極めて分かりやすく、しかもちゃんと「日本語」の文章になっているので解説の必要はなかったりする。オレはいわゆるインテリ用語や翻訳文体が嫌いでこういう風に分かりやすい日本語で語れる人を天才だと思っている。(こんだけ褒めとけば大丈夫だろう笑)まぁその「軽さ」にはちょっと問題はある気はするけども・・・
とにかくこの中で鈴木邦夫という右翼の人が言った「左翼に反対するのが右翼」という右翼の定義と、脳内会議中の記事におけるネット右翼の定義がリンクしたわけだ。面白いのはこれが左翼ではなく右翼である人からの証言であるところである。
もしそうだとするとネット右翼なるものが単に反左翼なのはある意味当然で、元々右翼といわれるもの自体に思想がなく単なる反左翼だからなのではないのか?という事になるわけだが・・・
この中で重要だと思うのは1960年の安保によって共産主義を理想とする左翼とそれに反対する右翼という風にそれまで色々あった思想がきれいに二分された、というところだ。その理由をここでは大衆に対する迎合としているが、もっと突っ込んで言えばこの時代に政治運動を展開した人々が戦後の教育のみで大人になった世代であるせいではないかと思う。(一応補足。1945年終戦、当時5才だった人が1960年のこの時20才になる)
おそらく原因は戦後教育にある、とオレは思うがとにかくこの時から「安保に反対」に反対、「ベトナム戦争反対」に反対、と左翼に反対するのが右翼となり思想なんかなくなった、というわけだ。もっともここでは左翼にも思想はないという結論なのだが・・・ともかくこの話にオレは深く納得した。確かに安保反対という右翼がいてもいい、というより本来ならいなければおかしい。アメリカに守ってもらうのではなくきっちり自主防衛しろ、というのが今の右翼的主張なわけだし、ベトナム戦争に反対する右翼がいたってまったく矛盾はなかったはずだ。
ただここではもう少し突っ込んで右翼に思想がなくなった理由を考えてみたい。


>「アメリカは日本を占領したけど天皇制は残してくれた。共産主義者天皇制反対なんだから許せん。だから共産主義者の言うことには全部反対するぞ。」


ここで言っているように「天皇制を残してくれたアメリカ」への支持というものが右翼が何か主張する時の最終的言い分になっていたと思うが、これについてのオレの考えをちょっと書きたい。
右翼なり保守なりの右派に位置する人が天皇に大きな価値を見るのは、天皇というものが日本という国、その歴史の一貫性、文化などを「象徴」するがゆえだと思う。元々そういった伝統に最高の価値を見出すのが右に位置する人なはずだ。だからこそ天皇が右翼にとって大事なわけだが、少なくとも「戦後の天皇」からは思想なり理論なりが殆ど完全に切り離され無くなってしまった、という事情が重要なポイントになる。
近代化以降日本がやったのはおそらくこの天皇(すなわち日本的なるもの)の思想化、理論化、体系化であると思っている。それは要するに近代的方法論による「日本主義」とでも呼ぶべき「何か」を構築しようという試み、だとオレは解釈している。「八紘一宇」という思想や植民地とは何か違う「同化政策」など当時の日本人の思想や理想の殆どは天皇という存在から導き出された考えに基づいている。(もちろん良い悪いは別問題として)
それが最終的に敗戦という結末を迎え、アメリカによって天皇は単なる象徴という事になり、この時点で天皇から(すなわちそれが象徴していた日本的なるものから)思想なり理論なりを導き出す事ができなくなってしまった、というわけだ。
これが戦後右翼(命名)から思想がなくなった真の原因だと思われる。それからは右翼にとって天皇は「好きだ」とか「とにかく偉い」という感情論以上のものにはなりえず、結局天皇に価値を置いて色々な問題を考えたところでそこから何らかの有効な結論を出すことはできなくなってしまった。安保に賛成か反対か、ベトナム戦争に賛成か反対か、こういう問題に右翼が思想的に答えることなんてもはやできない。だからそこでは「天皇を残してくれたアメリカ」に思想的に頼る他ないわけで、結果戦後右翼が主張し守ってきたのは日本における「アメリカの影響力」のようなものでありそれを否定する左翼に反対、すなわち反左翼という立場になってしまった、というストーリーになるんではないだろうか。


そういうわけだから最近の色々な事件で左翼的な思想に疑いを持ったとしてもその先に何らかの受け皿が容易されているわけではなく殆どの人は「反左翼」という立場以上のものにはならない。しかも今現在イラク戦争によってアメリカにただただついていくという日本における戦後の大きなベクトルが変わり始めている(とオレは思う)状況の中でこの戦争に賛成している保守派の言説にも、多分同じくらい疑いを持っている人が多いのではないかとも思う。要するに北朝鮮を支持してきた左翼は間違い、イラク戦争アメリカ支持の保守派は情けない、という感じではないだろうか?
で、こういう状況が[サヨク=近代西洋思想]という定義を当ブログで採用した理由に繋がってくる。ここには「戦後一貫してアメリカを支持してきた戦後右翼」も当然含まれる。共産主義も民主主義もあるいはアメリカニズムも要は近代西洋主義という枠組みの中での話である。こういったイデオロギー全体に対して疑いを持っている、というのが現在日本人のおおよその心情なのではないかと思う。そこでそれらを一まとめにした上でそれとは違う別な選択肢を当ブログでは模索していこう、というわけである。


と何だか書いてるうちに話がまたでかくなってしまった・・・というわけでこの記事のカテゴリーも「大きな話」にしとく。それにしても何だか主義主張に関する話ばかりで「ひきこもり」から随分離れてしまったな。う〜む・・・




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